聞こえたことは言わないと

通訳者にとっては当たり前のことなのですが、そうでない方はもしかすると「なるほど」と思うかもしれないのですが、通訳者は基本的に聞こえてきたことは言わなければいけません。それがどんなに恥ずかしい内容だろうと、残酷な内容だろうと、自分の考えとは違う内容だろうとです。(唯一例外かもしれないのがハラスメントに当たるような発言があった時に、非常に稀ではありますが、訳す前にスピーカーに本当にその発言でいいのかと確認するとか、本当に酷い内容の場合は訳さないという選択肢も現実としてなくはないですが・・・)


大学院で勉強していた時、異なる言語の通訳コース(具体的にはスペイン語、フランス語、韓国語、中国語、ロシア語など)で学ぶ学生たちとリレー通訳を練習する機会がありました。通訳コース以外の学生をスピーカーに招くこともあり、すべての内容を覚えてはいませんが、例えば核非拡散とか、とある国における幼児の性器切除の話などを練習した覚えがあります。


私たち通訳者も人間なので話されている内容に対して、「ひどい」とか「残酷だ」とか「私はそういうことは言わない(思わない)」ということも多々あります。ですが、仕事中はあくまでもスピーカーの方のメッセージを正確かつ過不足なく伝えることが役割であり、個人としての自分が何をどう思うか、どんなこと(や言葉)を言いたい、もしくは言いたくないかは全く重要ではありません。


通訳を始める時に、このスイッチが入るかどうかは非常に重要なことです。少し前の話ですが、「恥ずかしい」と感じてしまったのか、ある単語をひたすら避け続けて訳す通訳者がいました。スピーカーがその言葉を繰り返し使っているにも関わらずです。残念に思いました。訳出に通訳者のフィルターがかかってしまっているからです。聞き手にとっては、他国の人がそういう話をそういう単語を使ってストレートにするんだと感じて理解する機会でもあるのに、それを通訳者が奪ってしまっているのですから・・・。


とりあえず、聞こえたことは言わないと!です。(聞こえたことを「ただ」言えば良いわけではないので、そこはもちろん通訳者の腕の見せ所です。)

日英同時通訳者 古賀朋子 English-Japanese Interpreter Tomoko Koga

‟天職を生きる” 日英同時通訳者 古賀朋子(Koga Tomoko)のホームページです。お気軽にお問合せください。

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