人間の耳って
この単語はこう発音されるはずっていうある程度のデータが頭の中に確立されているはずですよね。だからこそ、その言葉を聞いて理解して返答するのだと思います。私の頭の中にある英語の発音は主に米語の発音なので、イギリス、オーストラリアの英語は元より各国語の訛りが入った英語の発音に惑わされることは数知れません。
そして上記以外にも、英語を第2外国語として話す人はむしろ英語のネイティブスピーカーより多いわけで、日々色々な訛りに悩まされています。通訳者の間でよく大変だと例に上がるのは、インド、フランス、ベトナムなどの訛りですが、何語を母語にする人でも発音のセンスには個人差があり、同じ母語の人でも人によって分かりやすさは全く違います。
私が仕事をする状況においては、英語スピーカーが複数いる場で、その全てがネイティブスピーカーということはほとんどないのですが、先週はなんと数十人いる人たちが全てアメリカ人で(私にとっての)発音の分かりやすさという意味では最高でした。(が、内容としては資料にない法律や制度の話がものすごいスピードで話されていて、興味深くもチャレンジングでした!)
話が脱線しましたが、そんないろいろな訛りに日々晒され(?)さすがに通訳者になりたての頃よりは随分分かるようになりましたが、それでもやっぱり苦労はします。先日も通訳をしていて、autumn high みたいに聞こえて??となったのですが、0.5秒後ぐらいにall time highだと分かりました。timeのiが二重母音のように発音されず、私の頭の中に標準としてあるものと違ったので、戸惑ってしまったわけです。この一瞬の遅れは同時通訳中には痛いですが、それでも分かればまだいい方です。
あまり言わない方が良い話なのかも知れませんが、ほんっとうに分からない時があります。通訳を介さずこの人の英語を聞いている人は、本当にみんな分かっているのだろうかと疑問に思うほどに。(分かっていないという裏話を分かっていない人から聞いたこともあります。笑)でも、誰もその人にあなたの英語が分からないとは言わない(言えない?)んですよね。
ちなみに私は訛りがひどい上に、ものすごいスピードで話す人には、時々「申し訳ないけれど私はあなたの英語のaccent*に苦労している。少しゆっくり話してもらえませんか?」と言います。(とはいえ、最後の最後の手段なので滅多に言いませんが。しかも言っても効果があるかどうかは別の話です。)*ちなみに英単語のaccentには「訛り」という意味があります。
通訳者はどんな訛りもお手のものと言いたいところですが、決してそんなことはありません。もちろん仕事柄色々な英語への露出はあるわけで、その分少しは分かる部分もありますが、時に同じ専門分野を共有している人同士の会話だと、お互いになかなかの強烈な訛りで話しながら、それでも本人同士は理解し合えていることもあります。そんな状況の中、その分野の専門家ではない私たちが通訳をするというのは、それ自体なかなかに難しい状況なわけです。だからこそ事前に資料をもらって一生懸命に予習、準備をするわけです。
以前MIT(だったと思うんですが、もしかしたら記憶違いかも)の学生が、英語の発話を訛りを訛りのないものに変えてくれる技術を研究中と読んだことがあり、心から楽しみにしていたのですが、その後どうなったか全く聞こえてきません。(残念すぎます。)
大学院時代にある教授に「朋子さんはきれいな英語を話すスピーカーだと、きちんと通訳できるけれど、英語が訛っているとダメね」と言われました。それ以来特に訛りのある英語に対する苦手意識はずっとあります。それでも長い間通訳をしてきて、好むと好まざるとに関わらず、様々な英語を訳さざるを得ないので、随分改善したはずですが、全ての人がきれいなアメリカ英語で発音してくれたら、訳語の選択などにもっと脳のリソースをかけられるのにといつも思ってしまいます。
さまざまな国の訛りやくせも個性なのだから素晴らしいという意見ももちろんあるでしょうし、それを否定する気は全くないのですが、自分の仕事においては訛りがなければないほど、ありがたいし良い訳出ができるんですよね。(言っても仕方ないんですが)
これからも日々の経験の中で、色々な発音のデータを脳の中に溜めていくしかないですね。脳のキャパをオーバーして耳から(いや、それより速く鼻から?)漏れていないといいんですが!
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