通訳者にとって大事なこと
とてもざっくりとした話ですが、皆さんの頭にはどんなことが浮かぶでしょうか?英語力、日本語力、理解力など細かい話をすればキリがないのですが、大学院生時代に言われて今もよく思い出したり、時にはお伝えしていることがあります。それは「次善の訳」が出せるということです。(前回のブログで耳から聞いて分かりにくい言葉について書きましたが、この「次善」はまさに目で見ないと分かりにくい例ですね・・・。)
通訳をするときに「最善の訳もしくは訳語」というものがあったとします。(この最善の訳というもの必ずしも一つの絶対的なものではないですが。)分かりやすく「意味を正しく伝えられ、かつ自分が出せるベストな訳」としましょうか。同時通訳においては残念ながら毎回、毎回、全ての瞬間で「最善の訳」を出すことはできません。これはどんな通訳者でも理解できることだと思います。そこで大事になるのが、どれだけ次善の訳を出せる語彙力や引き出しを持っているかということなのです。
日本語だけで話している時でもそうですが、ある単語や言葉が思い出せない時ってありますよね。そんな時どうするかといえば、類似した別の単語を言うとか説明をするということになると思います。同じようなことが通訳にも言えるということです。同時通訳の場合はもちろん時間的な制約があるので、1つの単語に対してあまり時間をかけることはできませんが、それでも説明するアプローチをとる場合は当然あります。これはある言語特有のコンセプトで訳出する対象の言語に同じことを意味する単語がない場合にもとるべきアプローチですね。
もちろん意味がぴったりとはまった訳語(もしくはフレーズ)を出すのがベストであり、いつだって目指すところはそこです。(ただし単語の種類や会話の内容によっては、ぴったりした訳を出さないとどうにもならないこともあります。)ですが同時にその最適なものが思い出せない時にそこに固執し続けて沈黙するのではなく、さっと気持ちを切り替えて、別のアプローチで大体の意味を伝えて次に移ることで、内容をごっそり落とさないようにすることはとても大事です。(あまりに沈黙が長いと放送事故のように聞き手の方も心配し始めます。)
つい最近の案件で出てきたaltruisticという単語を例に取りましょう。「利他的な」という意味ですね。例えば日本人が「利他的な」と言った時にaltruisticというのが、一番速くかつ正確さやスピーカーの言語レベルの反映という意味でも「正解」だと思います。でも仮にaltruisticを知らなかったり、思い出せなかったりしたらどうするのか。最低限the attitude of doing acts that help peopleという意味合いのことが出せればいいわけです。もっと簡単な言い方ならwanting to do things for othersという感じでしょうか?もちろんaltruisticと出すよりは意味が薄まっていることは否めません。ですが、間違いではないし沈黙したり飛ばしてしまうよりはいいと思います。 (実際の通訳では英語のaltruisticが出てきて「利他的な」と訳しました。英語スピーカーが使っているのを聞くことの方が多い言葉かもしれませんね。)
「最善の訳」を追い求めながらも、同時に「次善の訳」を多く持ち、出せるようにすることが良い通訳者への近道なのではないでしょうか?
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