意味を取るか言葉を取るか
通訳中に話者が言っている「意味」を取るのか「言葉」を取るのか迷う瞬間があります。基本はもちろん一つひとつの単語を訳すことではなく、全体のメッセージを伝えることなので、前者が優先すると思うのですが。
つい最近出てきた例をご紹介します。日本人のスピーカーが「馬車馬のように働く」と言いました。その時私の頭に最初に浮かんだのはwork like a dog"でした。英語ではこの表現を一番よく聞く気がしたんですよね。そして浮かんだ瞬間に迷いました。意味を取ってこのまま言うのか、それとも日本語の言葉に寄せてwork like a horseと言うのか。その時は意味と英語での伝わりやすさを取ろうと決めてwork like a dogと言ったのですが、2秒後にはその選択を少しだけ後悔しました。なぜならスピーカーが「馬車を引く馬ですからね」と言ったからです。そこで日本語でそういう表現をすることを付け足して今度は(犬が馬車を引くわけにいかないので)「馬車を引く馬」と言いました。(ただし細かい部分ではあるのでばっさり落としてしまうアプローチもあると思います。)
ちなみに改めてwork like a horseで検索してみると言わないこともないようですね。(私がこのフレーズを英語であまり見聞きしたことがなかっただけかもしれません。)またなぜそのように働くことをdogを使って表現するのかについてはsheepdog(牧羊犬)から来ているようですね。ですからdogと出してしまったのであれば、「馬車を引く馬」の代わりにherding sheepと言えばそのまま行けましたね。勉強になりました。
もう一つ別の例を思い出しました。日本では野菜などを買うときに外見を気にする人が多く、「規格外」の野菜は売れないというような話について訳すことがあったのですが、準備の段階で同じような話を英語で読むとどうも「規格外」(例えばnon-standard)みたいな言い方はいくつ記事を読んでも出てこなかったのですよね。一番よく出てきたのはimperfectでした。imperfectは厳密には「傷のある」というニュアンスの方が強い気もするので、どちらのアプローチを取るのかは悩ましいところだと思います。規格そのものを深く掘り下げていく方向に話が進むのであれば、そちらに寄せておいた方が安全だと思いますし、そうでなければimperfectと英語話者になじみのあるアプローチをするのもありだとも思います。(もしくは間をとって1回目は両方言って2回目からimperfectだけにするかもしれません。)
あとは「それを言い表す単語がない」ことというのはその文化において、その観点が重視されていない(もしくはまだ注目されていない)ことを表すわけで、そのような文化的背景を理解するのも重要なことだと思います。言語と文化が異なる人とはつまり「話を聞く前提条件や想定が違う」ことを理解するのは通訳者にとってとても重要です。ここが欠落していると、ただ表層的に言葉を訳しているだけになり伝わりにくくなるのではないでしょうか?
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