辞書は引くけれど・・・

何年も同時通訳をしていると、Aという英単語をBと訳せば一番しっくりくるなと瞬間的に思ったり、徐々に分かったりしてきます。そして往々にしてこのBという訳語は辞書に載っている訳語そのままではなかったりするのです。


今回もそんな単語があったので少し説明してみたいと思います。英単語としてはStigmaです。辞書を引くとこんな説明が載っています。


1〔通例a [the] ~〕不名誉の印;恥辱,汚点,汚名 

2《医学》紅斑こうはん,出血斑;症状,徴候

2a(昆虫などの)気門;(原生動物の)眼点

2b(花の)柱頭

3〔stigmata〕聖痕せいこん(◇十字架にかけられたキリストの傷に似た傷跡)

3a((古))(罪人・奴隷の)焼き印,烙印らくいん

(引用元:小学館プログレッシブ英和中辞典)


これを見ると分かるのですが、元々3, 3aのような意味があり、かなり思いニュアンスがある言葉です。ですが、宗教などの文脈だけではなく様々な社会問題やその当事者や関係者の話をする時にも出てきます。


よく聞くフレーズがthere is a stigma attached toというもので、引用符をつけてグーグル検索してみると、後に続くフレーズはmental health, admitting to feeling lonely, being transなどでした。


There is a stigma attached to admitting feeling lonely. という文があった時に「寂しさを認めることには恥辱or汚点or汚名がつきまといます。」と訳すとどうでしょうか?まず最初の恥辱はおそらく耳で聞いた時に分かりにくいと思うので言わないでしょうね。それから汚点と汚名は分からなくはないのですが、文章全体のニュアンスにたいして少し大仰な感じがします。ですからおそらく「恥ずかしさ」と訳すでしょうね。


この例は「恥辱」と「恥ずかしい」が同じ漢字を共有しているので想像がしやすい出てきやすいと思うのですが、中には辞書にはない全く別の言葉がしっくりくる場合もあります。またそういう例が出てきたらここで書きますね。


大学院時代に「一つの言語で聞いたイメージをそのままもう一つの言語で出せば良い」とよく言われましたが、まさにそういうことなのです。前回書いた内容ともつながりますが、単語との距離を適度に保って、文(もしくはメッセージ)全体として意味が通り分かりやすく訳出することを心がけていきたいものです。

日英同時通訳者 古賀朋子 English-Japanese Interpreter Tomoko Koga

‟天職を生きる” 日英同時通訳者 古賀朋子(Koga Tomoko)のホームページです。お気軽にお問合せください。

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