Zoom遠隔通訳体験を振り返って
今回はかなりの長文、かつ細かい通訳中の注意などが入っているので、通訳者かもしくは通訳者がどんなことに気をつけながら、遠隔通訳をしているのかに興味のある方に読んでいただければと思います。(写真は何もないと寂しいなーと思って入れてみただけで、本文の内容とは全く関係ありません。)
今回初の遠隔通訳を体験した。遠隔通訳については諸先輩方が様々な情報を提供してくださっているが、初めてづくしの今回の体験を共有することもまた、誰かの参考になることを祈ってつづってみることにした。
今回の案件は中国のエージェントからの案件。会議はある日の日本時間午後8時からで、案件の打診があったのは前日の午後8時ごろ。グローバルな組織の会議で、参加者は英語、中国語、日本語、韓国語話者であるため、それぞれの言語の通訳者が入る。パートナーのBさんは中国在住。リレー通訳の可能性もありとのこと。
まず救いになったのは昨今の状況でZoom自体の画面や機能にはある程度慣れていたこと。Zoomを使ったことがないという通訳者はもはやそんなに多くはないと思うが、まずここは押さえておきたいところ。
本番までの流れを紹介すると、前日に引き受けることが決まってからエージェントのコーディネーターSさんとパートナー通訳者Bさんが入っているWeChatのチャットに招待され、遠隔通訳に関しての資料やクライアントのウェブサイトのリンク、考えられる参加者のBioなどが送られてくる。このチャットが後で大きく活きたので、パソコンにWeChatを入れておいて良かったと思っている。
チャットでの会話の後、BさんとLineでつながり通話でいろいろ打ち合わせ。上記資料に目を通した後にいまいちわからないことを質問する。これまでいろいろな遠隔通訳の資料を読んではいたものの、具体的にイメージが湧かない部分もあったので、懇切丁寧にど素人の質問に答えてくださるBさんには感謝しかない。テクニカルな部分の不安をなるべく減らして通訳に入りたいし。
当日の午前11時より、練習及び打ち合わせとのことで、Sさん指定のZoomの回線に入る。ここのエージェンシーでは通訳専用の回線を持っているため、指定された回線に指定されたメールアドレスとパスワードで入る。(ここのエージェント及びクライアントでは自分のZoomアカウントで入ることは禁止されていた。)
そして一つの回線に二つの別々のアカウントで別々のデバイスから入るやり方になっている。一つがInterpreter、もう一つがAudienceである。主にInterpreterの方をメインに聞くため、パソコンでこちらに入った。そしてiPhoneのほうをAudienceとする。ここで忘れていたのだが、両方のデバイスにヘッドホンやイヤホンを先に挿しておかないとハウるので注意。やることが多いものさることながら順番も大事なのだ。あと入った後にすぐにZoom上での名前をE-J InterpreterとかE-J Audienceに変更することを徹底してくれと何度も念押しされた。
聞く音声の設定はパソコンをフロアにする。英語話者か日本語話者が話す時はここから音を聞く。パソコンのフロア設定はそのまま変えない。iPhoneの最初の設定は英語にしておく。ただし自分が通訳していないときにBさんの声を聞きたい時は日本語に変える。言語を選んだ後、その選択画面を閉じないと変更が反映されないので注意。また、リレーの際にはiPhoneから英語を聞くことになるので、自分の順番が来る前に必ず英語に戻しておくこと。
Sさんが通訳者のロールをアサインするという。パソコンの画面下の方に国旗とともにアサインの表示が出て、それを通訳者が承認するが、最初の表示は英日ではなく中日になっていたので変更をお願いした。国旗も表示されるので間違ったままアサインされることはないとは思うが注意。アサインが終わると英語、日本語のどちらかを通訳者が選べるようになる。ブースと同様に、自分の訳出言語を選ぶ。実際の音声チェックを行なって、練習と打ち合わせが終了。実際の画面を見て本番で何をすればいいかが分かり、この時点で前夜と比べてかなり大きな安心感を感じる。
その後本番の資料を予習して迎えた午後7時。Bさんが8時の会議に向けて7時には回線に入れるようにして欲しい、かつ音声チェックをしたいと要望してくれていたので、7:10ごろにはSさんと各言語の通訳者がそろい、音声チェックを含めた最終チェックが始まった。音声チェックの際にBさんから始めて自分に交代するところまで練習しようといっていたのだが、チェックが短すぎて自分の番が来ず、怖いのでWeChatのチャットで発話に至らなかったことを説明して、こちらの音声をチェックしてもらう。様々なことが起こり得るので図々しいぐらいに念には念を入れてチェックした方がいい。
ちなみに事前にもらっていた資料の中に訳しにくい表現があり、Zoomのチャットで各国語の通訳者が質問をしていたのだが、途中Sさんから「 Zoomのチャットはクライアントも見るので、なるべくそこで会話しないように」と言われる。なるほど。
あとエージェントから、本番中にZoomのチャットに入るコメントや質問も訳してくれとのリクエスト。しかしチャット欄はとても小さいのにそこに、日中韓で訳を入れるのは難しい。しかも他の人が発言をすれば古い発言はどんどん上に流れて消えてしまう。クライアント側の賢明な人がそれを指摘してくれて通訳者ではなくクライアント側で対応することになった。
いよいよ参加者も入ってきてほぼ時間通りに会議開始。事前に会議の開始時刻に関わらず、XX:15, XX:30. XX:45を目安に交代することをBさんと決めておいたので、8:00ぴったりから自分が普段から使っているタイマーをカウントアップで設定。また念のためパソコンの時刻表示も秒まで表示できる設定に変更しておいた。Bさんから始めていただくようお願いしていたので、フロアの音がパソコンから聞こえることを確認しつつ、iPhoneで言語を日本語に設定し、Bさんの訳出も聞いてみる。この過程で、iPhoneで問題なく言語選択ができることを確認。ギリギリまで日本語にしておくのは怖いので、13分経過したあたりで、iPhoneの音声を英語に戻す。
そして初めての順番。インド人の財務担当の方が早口で数字をどんどん羅列する。もはや自分が理解しようというスイッチをオフにしてひたすら数字を追いかけていく。この方がiPodsを使っていることもあって、なかなか大変だった。また、自分のマイク(Yeti Nano)の音の返しが非常に大きく、スピーカーの音量を上げようとすると自分の声の返しの音量も上がってしまい聞き難かった。(これは後日Sherpaというソフトを説明書の通りに入れることで解決。ただしNanoではなくYetiを買うと本体に調整つまみがついているのでそちらの方が楽。)
交代に使ったのは最初に述べたSさん、パートナーのBさん、そして私が入っているWeChatのチャットルーム。通訳中何か問題があればエージェンシーのSさんからここに連絡が入るというチャットルームだったのだが、これを開いたまま会議に参加するようにとの指示だったので、この同じチャットを交代用にも使わせてもらうことにした。
交代の仕方はその都度パートナーの方と決めれば良いと思うが、今回はアクティブ(現在通訳中)の通訳者が約15分の区切りのよいところで、センテンスの終わりと共に、所定のスタンプを送る(そしてマイクを切る)。パッシブの通訳者はスタンプが届いたのを見て、マイクをオンにして通訳を始めるという手順にした。この方法は(もちろん聞き手にとっては多少のラグやもしかしたらオンにした瞬間に音が少し切れるようなことはあったのかもしれないが)思いの外うまくいき、数回の交代をスムーズに行うことができた。
予定1時間のところ、1時間35分ほどであった。普通のブース2名体制であれば気にしなくて良いことを色々と気にしないといけないので大変だったが、初めてにしてはスムーズに行ったと思う。エージェントとパートナー通訳者のサポートなしには乗り切れなかったと思うので心から感謝している。
今後に際して考えることや課題。1.ツールについて、バックアップのヘッドセットを買ったほうが良いと思われるがどこの何を買うか。ゼンハイザーのヘッドセットを購入済みではあったが、今回のアサインメントには間に合わず、Yeti NanoにiPhone用のイヤフォンを繋いで対応した。2. 今回はZoomであったが、他のプラットフォームにも慣れていく必要あり。3. レートに関して1時間あたりの額を聞かれた。全日料金を単純に割り算したよりは高い額を出したが、準備として打ち合わせの実施、会議開始時刻よりだいぶ早めに入る必要があること、実際の通訳中の負担、そして日中(9-5時)の依頼だった場合に短くても結局半日潰れることを思うと、その額が妥当だったのかどうかは分からない。今後さらに遠隔の案件が入っていくようであればそれに合わせて考えていきたい。
これまで各種セミナーで教えていただたいたことも含めて、覚えておくとよいこと。1. 家のインターホンの音を切る、プリンターの電源を抜くなど、外的な音が入らないようにできることをしておくこと(プリンターは前日JACIのワークショップ中に、突然ヘッドクリーニングが始まって轟音がなったため、電源を抜いた。本番中でなくてよかった。)2. 手の届くところに筆記用具、ヘッドホン(イヤホン)の予備、タイマー、飲み物、飴などをおいておくこと。3. 途中で暗くなってくる時間帯の場合は電気をつけた状態で開始すること。4. 最初は片耳でパソコン、もう片耳でiPhoneの音を聴こうとしたが微妙な時差があって全く通訳に集中できないのであきらめた。リレーになったら(もしくはパートナーの訳出を聞きたいときに)iPhoneから聞くこととした。5. ZoomとWeChatの両方の画面を開いて通訳していたが、Zoomで資料共有されると、Zoomが全画面表示になりWeChatのウィンドウが隠れてしまい、すぐにスタンプを送れない場面があった。2台目のディスプレイなどがある場合は別々の画面に表示するといいかもしれない。
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