凛とした女性
日英の通訳中に「凛とした」という表現が出てくることがあります。皆さんならどう訳しますか?
話は急にさかのぼりますが、私が初めて交換留学生としてアメリカに留学していた9ヶ月の間に、それまで音楽は邦楽一辺倒だったのが、洋楽を聴くようになりました。曲名を出すと時代がバレますが、当時オーストラリア出身のNatalie ImbrugliaのTornという曲がアメリカでも流行っていました。その歌詞の一節に” He was warm, he came around like he was dignified”というフレーズがありました。
当時英和辞書を引くと、「威厳のある」、「堂々とした」、「高貴な」といった訳が出てきました。最初に出会った時に男性に対して使われていたこと、そして英和辞書にあった訳の言葉の印象から、私はこの単語に対してどちらかというと男性的な印象を抱きました。
それから時が流れ、私は通訳者として働くようになりました。そして「凛とした」という表現をどう訳せば良いのか悩んでいました。(悩むという言葉は大げさですが、通訳者はその場で適訳が見つからず「棚上げ」している単語が常に一定数ある気がします。)そしてなぜかある時急に、もしかして「凛とした」の英訳としてdignifiedが適切なのではないかと思い立ったのです。(「とっくに知っていたよ」というご意見もあるかもしれませんが。)
そう思った時から「凛とした」の訳にdignifiedを使うようにしていましたが、先日その選択に太鼓判が押される出来事がありました。久々の休日に大好きなアガサ・クリスティの作品を見ようと、かなり前に録画してあったThe Witness for the Prosecution(邦題:検察側の証人)を選びました。いつものように音声は英語を、字幕は日本語を選び見ていると、重要な登場人物の描写場面でdignifiedが出てきて、その字幕が「凛とした」となっていたのです!
実は今回このブログを書くにあたって、「凛とした」と「英語」とをGoogle検索してみました。すると、dignifiedと出てくるので、今となっては検索ですぐに分かる話でした。ですが、一般論として、英和辞書と和英辞書を両方使っていても、いまいちその単語の裏にある感覚や文化の部分が分からず、英語と日本語とをうまくマッチングできないことがあるのです。そもそも完全一致ということはほぼあり得ないのですが、まずは英日それぞれの単語がどんな文脈でどんな感情を伴って使われているかを理解する必要があります。(私の場合は日本語ネイティブなので、特に英語において質量ともに豊富かつ継続的なインプットを続けていく必要があります。)
また検索した情報が必ずしもベストな訳とは限りません。今の時代は様々な情報がオンライン上に蓄積されてきて、辞書のサイト以外にも活用できる情報がたくさんあるのでとても便利だと感じています。ですが、そこに完全に頼るのではなく生の英語を聞いて、自分の経験と言語感覚を使いながらベストな訳を模索していくことが大事だと感じています。これからも自分の中の「急にしっくりくる」感覚と瞬間を大事にしていきたいです。
写真はこちらのサイトからお借りしました。ちなみに一緒に写っている「そして誰もいなくなった」もとても見応えのある作品でした。
https://www.simplyhe.com/products/christie-the-witness-for-the-prosecution-and-then-there-were-none-dvd
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